レポート:99『介護・看護スタッフの定着率向上が最大の経営課題』

 今月のコラムは本年3月に実施されました「神戸市老施連」さまの平成28年度賃金実態調査結果報告書(今回で4回目で、弊社が調査分析のお手伝いをさせていただいた調査)のまとめ欄(私が執筆)を原文のままご紹介をさせていただきます。この調査では、賃金水準調査のほかにスタッフの定着状況等も併せて調査をしたもので、その結果、平成27年度の一年間の介護・看護スタッフの離職率は22%と予想以上に高い結果となりました。施設別には温度差があるものの神戸市の介護業界全体の大きな経営課題であることが改めて浮き彫りになったものです。

 『2025年(今から8年後)には、団塊の世代が全員後期高齢者(75歳以上)に突入し、介護を必要とする人口がピークを迎え、介護サービスを提供する介護スタッフ数を現在の149万人(2012年度)からさらに90万人増やす必要(神戸市の人口比から推定すると神戸市では1万900人となります)が見込まれています。一方で、同時に同年には介護サービスを提供する現役世代(15歳~64歳)の人口が100万人減少することが確実視されています。

 この人口趨勢を冷静に捉えると数年以内に介護スタッフの新規採用は極めて困難になる時代に突入することは確実です。

 今回の賃金実態調査でも、介護・看護スタッフの平成27年度の新規採用者数は641名で、同期間に離職した介護・看護スタッフ数は587名となっています。この641名の新規採用を実現するための施設側の心労と労力とコスト、さらには戦力化のための教育研修時間と費用は半端ではないことは容易に想像できます。その一方で587名が離職し、実質54名しか増えていないことになります。

 したがって、当然の理屈として離職者人数をゼロに近づけるために施設として渾身の経営努力が必要となることを本調査は明確に示しています。昨年実施されました神戸市介護サービス協会による「介護人材定着に関するアンケート調査」では、介護スタッフの退職理由の上位は、①「仕事内容が身体的にきつい」、②「職場の人間関係の悪化」、③「賃金が低い」の順になっています。賃金が低いということも大きな要因かと思いますが第3位です。賃金については、今後も厚生労働省の方針で処遇改善加算により是正されていくことが予想されますので、離職対策としては賃金以外の要因を強化すべきではないでしょうか。

 また、離職者の大半が介護職として再就職していることも事実です。ですから、前述の退職理由のうち②「職場の人間関係の悪化」に焦点を絞って強化策を講ずる必要があります。そのために、職場の人間関係の再構築(信頼関係の醸成)が最も大切になると考えられます。

 特に、現場の中間指導職と介護スタッフの人間関係(信頼関係)は最重要課題です。そのためには中間指導職の現場スタッフとの「コミュニケーション能力と技術の育成」が重要となります。人は誰でも「認められたい」という想いを持っています。「認められる」ことがどんなに嬉しいか、「認められない」ことがどんなに寂しいことなのかを知っています。このことは自分たちの仕事上の喜びにダイレクトに関わっており、日々の行動を進化継続させる「力の源」になっています。これが失われると意欲が減退し退職につながっていきます。このことを中間指導職はしっかりと理解し、日常業務の中でスタッフに対する「承認行動」を意識化し発信していくことが何より重要です。

 信頼関係の構築は、知識や技術ではなくて「心の有り様」だとおっしゃる経営者もあるかと思いますが、「心の有り様」といった観念的・抽象的な概念では現場を預かっておられる中間指導職のみなさんには理解されませんし通じません。もっと科学的・心理学的・具体的・行動的な技術や知識(コーチング技術等)を理解・修得し、さらに現場の中で実践することから始める発想の転換が必要となってくるのではないでしょうか。

 今後の最重要経営課題として「職員満足度充実による定着率向上」をテーマにして、本調査結果を参考にしていただき、魅力ある職場創りをされんことを願ってやみません。』

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(株)経営開発センター

参与 阿野 英文

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