レポート:89号『職員満足の実現に向けて』

 

 間もなく梅雨空も明け、いよいよ本格的な夏空の到来を感じるこの頃ですが、読者のみなさまにはお変わりなくご健勝のこととお慶び申し上げます。7月は特に経営上の大きなイベントもなく、比較的ゆったりとした時期かと存じます。そういった今こそ、繁忙に流されて手がつかなかった大事な課題に、しっかりと時間とエネルギーを投下できる絶好の時期かと考えます。

 その一つは職員満足度の向上に向けての改善努力ではないでしょうか。どちらの施設さまにおかれても、介護スタッフの充足には大変に苦慮しておられると拝察させていただきます。この介護スタッフ不足は2025年度まで続く長期的かつ最重要の経営課題です。特に阪神地区では、介護スタッフの熾烈な争奪戦が繰り広げられています。私も各福祉施設に訪問させていただいた折に、転職しましたという顔見知りのスタッフの方にお出会いさせていただくことがあります。共通して言えることは、退職した施設には満足していないが、介護職という仕事には生きがいややりがいを感じて満足されている結果ではないでしょうか。介護スタッフが現在お勤めの施設に満足されてしっかりと定着され介護という仕事を通じて生きがいややりがいを実感し、自己実現を図ることは、施設側のみならずご本人にとっても幸せなことではないでしょうか。退職されるスタッフは一身上の都合とか言って、本音の退職理由は言われないのが通常です。しかし、何か職場風土に不満な点があり、それが改善される見込みがないと判断されて退職されるのが現実です。

 そこで、既存の職員さまに自施設への満足度をアンケートにより調査分析し、それを一つひとつ改善することにより、スタッフの満足度を上げ、定着率を上げることは大変に重要なアクションです。

 そのためには既存職員の本音を聞く必要があります。しかし勤務されている施設経営陣には本音をなかなかオープンにされないのも事実です。そこで、施設が実施する調査ではなく、第三者である我々が施設の委託を受けて実施する方法を取ります。施設の事務所に我々が管理する投函BOXにカギをかけて、さらに封筒に封印のうえ投函いただき、施設側は一切中を見ることができない環境のもとで実施することが重要です。そうでないと、なかなか職員の本音は出てきません。我が施設の職場風土にはそんな心配はないと思われがちですが、まず皆様の施設の過去5年間の離職率を確認してみてください。この各年度の離職率が10%を超えているようですと、何かスタッフの満足度を阻害する職場風土要因があると考えてください。それが何かという分析アプローチ法が今回報告させていただく「職員満足度アンケート調査」です。

 アンケート調査の質問事項は30項目あり、5群から構成されています。①方針の徹底(経営方針・計画の浸透度・仕事の目標の達成度合い・意見提案の反映度合い等)、②組織運営・仕事の仕組み(仕事の指示系統の明確化・仕事の範囲と責任の明確化・小集団活動や提案制度の活発化等)、③コミュニケーション(上司自身への信頼性・他の職場との連携協力の良否・職場の一体感の有無等)、④処遇(給与賞与支給の公平性・仕事への評価の適正性・昇格昇進の適正性等)、⑤個人の意欲(今後も今の職場で働き続けるか・仕事や施設への安心感・仕事のやりがい等)です。さらに職員属性分類として、①性別(男性・女性)、②年齢別(20歳代・30歳代・40歳代等)、③部門別(特養・デイ・居宅・厨房等)、④勤続年数別(1年未満・3年以下・9年以下・10年以上等)、⑤役職別(一般職員・役職者等)、⑥雇用形態別(正職員・パート職員等)に区分して実施します。

 縦軸に質問項目(5群30項目)を取り、横軸に職員属性を取って、交差する欄に該当する満足度係数(0点から100点)を表示します。さらに表示された満足度係数によって、レッドカード(30点未満)を赤色、イエローカード(30点以上40点未満)を黄色、多少気になるゾーン(40点以上50点未満)を青色、満足ゾーン(50点以上)は無色に表示されます。

 その結果、どの職員属性がどの項目にどの程度の不満足を感じておられるのかということが一瞬で俯瞰できます。また、弊社ではすでに40社程度の社会福祉法人さまで実施させていただいていますので、その平均指標との比較も可能です。介護スタッフは退職後、近隣の施設に転職される現実を見れば、我が施設は近隣の施設に比べて、何が強みで何が弱みであるのかを知ることは定着率を上げる上で極めて重要です。絶対値は低くても、他の施設の平均値よりも高ければ、致命的な要因にはなりません。反対に、絶対値は問題ないレベルでも、他の施設の平均値よりも悪ければ改善の必要があるということです。

 さらに、本アンケート用紙にはフリーアンサー欄が設けてあり、施設への要望や意見を自由に記入することができます。A4用紙7ページにもわたる多くの意見が集まった事例もあります。これらの一つひとつが職場風土改善の宝の山になります。

 いずれにしても、自施設の職場風土にどのような問題点や課題点が潜在しているのかを科学的に抽出し、その解決に向けて地道な努力をすることにより、確実に定着率はあがります。資金は金融機関に腐るほどありますが、人財はこうした施設側の地道な経営努力でしか蓄財できないと確信します。

 地域社会・利用者・ご家族・職員のすべてから支持を受ける施設創りを目指して、一度チャレンジされてはいかがでしょうか。

文責 株式会社 経営開発センター 阿野英文 拝

 

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