社会福祉法人の会計基準は、社会の要請と経営環境の変化に対応するため、大きな変革を遂げてきています。
昭和51年1月 | 社会福祉法人経理規程準則 |
平成12年2月 | 社会福祉法人会計基準 |
平成12年3月 | 指定介護老人福祉施設等会計処理等取扱指導指針 |
平成12年12月 | 当面の取扱い(弾力通知) |
平成13年3月 | 授産施設会計基準 |
平成18年10月 | 就労支援の事業の会計処理の基準 |
平成23年7月 | 社会福祉法人会計基準 |
平成23年7月に新たな社会福祉法人会計基準が制定されるに至った背景には、主に3つの課題と目的がありました。
目的 | 背景・課題 |
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会計ルール併存の解消による事務簡素化 | 平成12年度以降、「社会福祉法人会計基準」のほか、「指導指針」や「老健準則」など複数の会計ルールが併存していた。これにより、事務処理が煩雑化し、計算結果が異なるなどの問題が指摘されていた。 |
社会経済状況の変化への対応 | 公的資金や寄付金を受け入れる社会福祉法人には、効率的な法人経営と、経営実態を正確に反映した情報開示が求められるようになった。事業の効率性に関する情報の充実と、事業活動の透明化が急務であった。 |
分かりやすい会計基準の作成 | 上記の課題を解決するため、簡素で国民に分かりやすい会計基準を新たに作成し、会計処理基準の一元化を図ることが目的とされた。 |
平成28年の社会福祉法改正は、法人のガバナンス強化を主眼とし、会計監査制度に大きな変更をもたらしました。
改正社会福祉法により、経営組織のガバナンス強化の観点から、一定規模を超える法人(収益30億円超または負債60億円超)について会計監査人の設置が義務付けられました。これにより、外部の専門家による財務諸表の監査が制度化され、財務報告の信頼性向上が図られています。
法人が受けることができる監査および支援は、法人の規模やニーズに応じて複数存在しています。
区分 | 対象法人 | 内容 | 報告書 |
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①会計監査人による監査 | 会計監査人設置義務法人、または定款で任意に設置した法人 | 法律に基づき、公認会計士または監査法人が計算関係書類及び財産目録を監査する。 | ・独立監査人の監査報告書・監査実施概要及び監査結果の説明書 |
②会計監査人による監査に準ずる監査 | 会計監査人設置義務のない法人が任意で契約 | 監査義務はないが、会計監査人による監査と同等の監査を受ける。 | (同上) |
③財務会計に関する内部統制の向上に対する支援 | 会計監査を受けない法人(将来的に監査人設置義務が見込まれる法人に推奨) | 公認会計士等が、ガバナンス、事業プロセス、決算体制等の内部統制に関する課題を発見し、改善提案を行う。 | 財務会計に関する内部統制の向上に対する支援業務実施報告書(別添1) |
④財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援 | 会計監査を受けない法人 | 公認会計士、税理士等が、予算、経理体制、会計処理の正確性など、具体的な事務処理体制を確認し、所見を述べる。 | 財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援業務実施報告書(別添2) |
会計監査や専門家による支援を受ける法人には、所轄庁が行う指導監査において、以下のようなインセンティブが与えられています。
これらの措置は、法人の自主的なガバナンス強化を促進し、行政と法人の双方の負担を軽減することを目的としています。判断にあたっては、法人から提出される独立監査人の監査報告書や専門家による支援業務実施報告書が重要な根拠となります。
行政による指導監査では、会計管理の適正性が厳格に監査されています。兵庫県が公表している指導監査における指摘事例(会計関連)を掲載します。
区分 | 指摘事例 |
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法人運営 |
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財産管理 |
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計算書類・経理処理 |
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経理規程 |
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契約、決裁 |
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これまで掲げた複雑な課題に対し、私たちは具体的かつ効果的な社会福祉法人に特化した会計支援サービスを提供しています。私たちのサービスは、単なる事務補助ではありません。法人の皆様と伴走し、会計業務を安心の経営基盤へと変えるための専門サポートです。
①社会福祉法人に特化した専門性
社会福祉法人に精通した専門スタッフが担当しお客様をサポートいたします。複雑な社会福祉法人会計基準に完全準拠し、法制度の変更にも迅速に対応しています。専門知識に基づいた的確なアドバイスと実務支援を可能とします。
②伴走型サポート
定期的な訪問指導や、電話・メール等による随時の相談対応を通じて、日常の仕訳業務から年次の決算まで一貫して支援します。経理担当者様の「困った」に寄り添い、共に解決策を見出します。
③経営層への貢献
私たちは、会計情報を単なる数値の羅列で終わらせません。月次訪問時などに理事長・施設長へ会計報告を実施し、法人の財政状況や経営成績を分かりやすく解説します。これにより、経営層の皆様がタイムリーかつ的確な経営判断を下すための重要な情報を提供します。
私たちの会計支援サービスは、法人の規模や経理体制の状況に応じて、最適なサポートをご提案いたします。
サービス名 | 具体的な内容と提供価値 |
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①月次訪問会計指導 | 月次訪問による、現金預金残高の照合、仕訳の妥当性検証、月次試算表の整合性チェックなどを通じて、日常業務の精度を高め、早期に問題を是正します。行政監査で指摘されやすい項目の未然防止に繋がります。 |
②決算支援業務 | 決算整理仕訳や計算書類、附属明細書等の検証・指導を行い、円滑で品質の高い決算を支援します。これにより、決算業務の円滑化、法令に準拠した財務報告を実現します。 |
③随時の会計相談対応 | 電話、メール等で発生する日々の疑問点に迅速に対応します。経理担当者、施設長等の不安を解消し、業務の停滞を防ぎます。 |
④経営層への会計報告 | 定期的に、理事長や施設長へ収支状況を分かりやすくご報告します。これにより、経営判断に必要な財務状況のタイムリーな把握を可能にします。 |
⑤財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援業務 | ご要望に応じて、財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援業務実施報告書(別添2)を実践し、法人のガバナンス強化を支援します。 |
⑥その他 | 消費税申告業務、行政監査や監事監査の立ち会い、理事会・評議員会への出席など、ご要望に応じた柔軟なサポートを提供します。 |
①行政監査への備えと安心感の獲得
指導監査で指摘されやすい項目を日々の業務の中から網羅的にカバーし、適正な会計処理体制を構築します。月次での検証と指導を通じて、計算書類の整合性や規程遵守の状況を常に最適な状態に保ちます。これにより、突然の監査にも慌てることなく対応できる体制が整い、経営層や担当者の皆様の監査に対する不安を大幅に軽減します。
②経営の透明性向上とガバナンス強化
正確な月次・年次決算と、経営層への分かりやすい定期報告は、法人の財政状態と経営成績を明確に可視化します。この透明性の高い財務情報は、理事会や評議員会、さらには所轄庁や地域社会に対する説明責任を果たす上で不可欠です。客観的なデータに基づく意思決定が可能となり、法人全体のガバナンス強化に直結します。
③職員の負担軽減と本来業務への集中
社会福祉法人会計の複雑さや特殊性に対して、相談相手がいないストレスから解放されます。私たちが専門業務を強力にサポートすることで、経理担当者の業務負担と心理的ストレスを大きく軽減します。これにより、施設長や経理担当者は、注力すべき業務にシフトすることが可能になります。
~経営指標の見方と活用~
当社は、社会福祉法人に特化した経営分析を実施し、法人の安定的かつ継続的な経営を支援しています。
社会福祉法人は、社会福祉法(第25条)によって、社会福祉事業の主たる担い手として当該事業を安定的・継続的に経営していくことが求められており、確固とした経営基盤を有していることが必要で、社会福祉事業を行うために必要な資産を備えておかなければならない。とされています。
監督官庁では、経営に課題を抱える社会福祉法人を早期に発見し、改善を指導するため、提出された財務諸表等を活用した、経営指導の強化を実施しています。
当社のサービスでは、こうした監督官庁の指導方針を念頭に置き、法人が自立・自律的に経営課題を把握し、持続性を高めるための経営分析を行っています。
当社の経営分析では、分析用スコアカードの中で、特に重要となる経営指標に基づき、法人の経営状況を多角的に分析しています。法人の経営状況は、以下の要素に分類された各種指標を用いて詳細に分析されます。
収益性の分析は、法人が提供する福祉サービスが経済的に成り立っているかを評価する上で最も基本的な視点です。事業活動から十分な利益を生み出すことは、サービスの質を維持・向上させ、職員の待遇を改善し、将来の施設の大規模修繕や建替え、事業展開に備えるための原資を確保する上で不可欠であり、法人経営の安定と成長の基盤となります。
経営指標 | 計算式 | 解説 |
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サービス活動増減差額率 | サービス活動増減差額 ÷ サービス活動収益計 (%) | 法人の主とする事業の収益性を表す指標である。値がマイナスとなる場合、主とする事業によって赤字が発生している状況を示す。マイナスが継続する場合、法人経営の安定性を損なうおそれがある。 |
経常増減差額率 | 経常増減差額 ÷ サービス活動収益計 (%) | 特別な要因を除く法人の経常的な活動による収益性を表す指標である。値がマイナスの場合、主とする事業に金融取引等を加減算した結果、経常活動において赤字が発生している状況を示す。マイナスが継続する場合、法人経営の安定性を損なうおそれがある。 |
法人が社会福祉事業を長期にわたって継続していくためには、盤石な財務基盤が不可欠です。安定性と持続性の分析は、法人が短期的な支払能力を有しているか(短期安定性)、そして長期的に見て構造的に健全な財政状況にあるか(長期持続性)を評価します。これにより、予期せぬ支出や収入の減少といった事態への対応能力や、将来にわたる事業継続の可能性を判断することができます。
短期安定性
短期的な支払義務に対する支払能力を示す指標です。
経営指標 | 計算式 | 解説 |
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流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 (%) | 流動資産は短期的に資金化できる支払手段を表し、流動負債は短期的な支払義務を表す。 短期支払義務に対する支払能力を示す指標であり、その値が高いほど、短期的な支払能力が高いことを意味する。 一般的に本指標の値が200%以上であることが望ましい。 |
現金預金対事業活動支出比率 | 現金預金 ÷(事業活動支出計 ÷ 12) (ヶ月) | 現金預金残高が、事業活動支出の何か月分に相当するかを示す指標であり、本指標の値が大きいほど手許現金預金に余裕があることを意味する。 概ね、3か月程度が望ましいと考えられる。 |
長期持続性
借入金などの負債に対する安全度や、長期にわたる事業継続性を見る指標です。
経営指標 | 計算式 | 解説 |
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純資産比率 | 純資産 ÷ 総資産 (%) | 借入金など負債に対する安全度を見る指標であり、値が高いほど支払負担が小さく、長期持続性が高いことを意味する。 長期にわたり収益性が悪化している法人や施設整備等に関して借入金依存度が高い法人は、本指標の値が低くなり、長期持続性の点で課題を抱えている可能性がある。 |
借入金比率 | 借入金残高合計 ÷ 総資産 (%) | 総資産に対して借入金残高がどの程度あるかを示す指標であり、本指標の値が低いほど、長期持続性が高いことを意味する。本指標が高い場合、必要な事業資金の大半を借入金で調達していることから、業績悪化時の負債の支払負担が困難となる可能性があり、長期持続性の点で課題を抱えている可能性がある。 |
会計上の利益と、事業を継続させるための資金収支(収支)は全くの別物です。利益が出ていても資金がショートすれば、法人は「黒字倒産」という最悪の事態に陥りかねません。「資金繰り」の分析は、日々の事業運営、将来の設備投資、借入金の返済といった活動の原資となる収支状況が健全であるかを評価するものであり、極めて重要な分析項目です。
経営指標 | 計算式 | 解説 |
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債務償還年数 | 借入金残高合計 ÷ 事業活動資金収支差額 (年) | 当期の資金収支差額を基準とした場合に、法人の借入金残高を事業活動資金収支差額で完済するために必要と考えられるおおよその期間を示す指標であり、借入金の償還能力を表す。年数が短いほど、償還能力が高いと言える。 |
事業活動資金収支差額率 | 事業活動資金収支差額 ÷ 事業活動収入計 (%) | 当年度の事業活動による資金収入と資金支出のバランスを示す指標であり、資金の獲得能力を表す。 事業活動資金収支差額は借入金返済及び将来投資に向けた資金準備の原資となるため、本指標の値はプラスであることを要する。 社会福祉法人は、事業活動資金収支差額によって、借入金の償還、固定資産取得(設備更新を含む。)の資金準備、積立預金の計上等を進めていくため、事業活動資金収支差額の多寡は、法人の事業継続性に大きく影響する。 |
合理性の分析は、法人の費用構造や資産の状況が、その事業内容に対して妥当であるかを評価することを目的とします。人件費、事業費、事務費といった経費が収益に対して適切なバランスで配分されているか、また、将来の事業継続に必要な資産が適切に管理・蓄積されているかを確認することは、無駄のない効率的な経営と持続可能性の確保に直結します。
費用
経営指標 | 計算式 | 解説 |
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人件費・委託費比率 | (人件費 + 業務委託費)÷ サービス活動収益計 (%) | 社会福祉事業は一般に労働集約型であるため、人件費割合が大きくなる傾向にあり、本指標の値の多寡が収益性に大きく影響する。 人件費の多寡は、職員数と給与水準に依存する。給与水準には、法人の職員待遇の状況が反映されるが、地域性の影響も受ける。人件費は固定費としての性格が強いので、サービス活動収益の増減によって本指標の値が変動することにも留意が必要である。 |
事業費比率 | 事業費 ÷ サービス活動収益計 (%) | 事業費は、給食(材料)費や介護用品費など、施設利用者へのサービスの提供に直接要する経費を表し、サービス活動収益の増減に影響される変動費としての性格を有する。 |
事務費比率 | 事務費 ÷ サービス活動収益計 (%) | 事務費は、修繕費、業務委託費、及び土地・建物賃借料など、法人・施設の運営に要する一般管理費的な経費(人件費を除く。)を表す。 |
減価償却費比率 | 減価償却費 ÷ サービス活動収益 (%) | 減価償却費は、過去の設備投資額及び会計方針(減価償却方法)に影響される固定費である。すなわち、設備投資額が大きいほど減価償却費も大きくなる。 |
国庫補助金等特別積立金取崩額比率 | 国庫補助金等特別積立金取崩額 ÷ 減価償却費 (%) | 本指標は、設備投資における国庫補助金等への依存度を示すものである。 |
資産
経営指標 | 計算式 | 解説 |
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正味金融資産額 | 現金預金 + 有価証券 + 投資有価証券 + 積立資産(合計) - 運営資金借入金 (円) | 社会福祉法人の有する内部留保について、純資産ではなく、資産として所有する金融資産額に着目した指標である。 |
固定資産老朽化率 | 減価償却累計額 ÷ 有形固定資産(土地を除く)取得価額 (%) | 社会福祉法人の有する施設設備の老朽化状況を示す指標である。建物等の有形固定資産は、耐用年数に応じて減価償却が実施され、施設建設時や設備取得時から年月が経過すればするほど、本指標の値は高くなる。 |
総資産経常増減差額率 | 経常増減差額 ÷ 総資産 (%) | 本指標は、社会福祉法人が保有する資産に着目した指標であり、保有する資産が有効に活用されているかという観点から、社会福祉法人の事業の効率性と収益性を同時に示す指標である。 |
これらの経営指標を定期的にモニタリングし、平均値・過去の推移と比較・分析することで、自法人の強みと弱みを客観的に、そして定量的に把握することが可能になります。また、サービス区分別に分析することで、より詳細な原因分析を行うことができます。これにより、経営課題を早期に発見し、データに基づいた的確な改善策を立案することができます。
これらの経営指標を単なる過去の実績評価に留めず、未来を切り拓くための戦略的な羅針盤として積極的に活用し、変化の時代を勝ち抜く経営基盤を構築されることを強く期待します。
社会福祉法人を取り巻く経営環境は、報酬改定や人材不足、物価高騰や賃金上昇など、先を見通しにくい不透明な状況にあります。こうした中で、法人が安定的かつ持続的に歩んでいくためには、従来のやり方を見直し、着実な改革に取り組むことが求められています。
経営改善を進めるうえで大切なのは、「あるべき姿」と「現状」との間にあるギャップをしっかりと「課題」として捉え、組織全体が当事者意識を持って解決に向き合うことです。そのためには、①目指す「目標(ビジョン)」を明確にすること、②「仕組み(PDCAサイクル)」を整えること、そして③「意識(危機感の共有と参画意識)」を高めること、この3つが欠かせません。
これからの社会福祉法人経営には、「理念」「数字」「人」「法制度」という4つの柱を統合的に実践していく姿勢が必要です。特に、外部への説明に用いる「財務会計」に加えて、日々の経営判断に役立つ「管理会計」の仕組みを導入することが大きな鍵となります。管理会計を活用することで、法人の理念や目標を全職員で共有し、組織全体で経営の安定と成長をめざす体制を整えることが可能になります。
そして最終的には、経営者・管理者のリーダーシップが中心となり、協力と信頼を土台とした「黒字体質」の組織文化を築き上げていくことが、持続可能な経営の大切な基盤となります。
社会福祉法人は、社会福祉事業の主たる担い手として、安定的かつ継続的に事業を経営することが法的に求められています。社会福祉法第25条は、法人が確固たる経営基盤を有し、事業に必要な資産を備えなければならないと規定しています。
この要請に基づき、監督官庁は、法人から提出される財務諸表等を活用し、経営状況の調査・分析を一層強化しています。これにより、経営に課題を抱える法人を早期に発見し、具体的な改善指導を行う方針が示されています。
現代は「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」と定義され、社会福祉法人は数多くの外部環境変化に直面しています。ダーウィンの言葉として知られる「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である」という警句は、まさに今日の法人経営に重なるものです。
主な外部環境の変化と、それに対応するために法人に求められる取組みは、次の通りです。
カテゴリ |
主な外部環境変化 |
法人に求められる対応 |
経済・社会 |
①介護・障害分野の報酬改定 ②人材不足、人材確保難 ③IT革命、情報社会の進展 ④世界的な感染症、紛争の脅威 ⑤物価高騰、賃上げ圧力 |
①法令遵守 ②経営の健全化 ③利用者満足度の向上 ④職員満足度の向上 ⑤DX・生産性向上 |
顧客・市場 |
①日常生活への不安感の高まり ②権利意識の高まり ③利用者が事業所を選ぶ(競争激化) ④利用者ニーズの変化・多様化 |
経営改善とは、まず現状を丁寧に分析し、どこに課題があるのかを見極め、その原因を明らかにしたうえで、解決に向けた取り組みを進めていくプロセスです。そこでのキーワードは「問題意識」と「当事者意識」に他なりません。
①問題の定義
問題とは、「あるべき姿・望ましい姿」と「いまの姿・現実の姿」との間にあるギャップを指します。
②問題意識
そのギャップに気づくことが、改善に向けた最初の一歩となります。
③当事者意識
問題意識を持つだけでは「評論家」「傍観者」にとどまってしまいます。自らが主体的に解決に取り組む「当事者意識」がなければ、具体的なアクションには繋がりません。
経営改善を成し遂げるには、3つの要件を統合的に推進していくことが欠かせません。特に、組織の根底を支える「人の意識」が変わらなければ、真の成功には繋がりません。
要件 | 要件 | 具体策 |
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目標(ビジョン) | 法人が目指すべき方向性 | 方針の明確化、目標値の設定 |
仕組(システム) | 目標達成のためのプロセス | 経営管理、PDCAサイクルの実践 |
意識(ベクトル) | 改革を推進する組織文化 | 危機感の共有、参画意識・当事者意識の醸成 |
持続可能な経営を実現するためには、4つの経営軸を判断基準とし、日々の判断や行動に結びつけていくことが大切です。これらの軸に基づいた経営者・管理者の「判断」と「行動」が、最終的な「結果(業績)」となってあらわれます。
4つの経営軸 | 内容 |
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理念に基づく経営 | 法人の理念実現に向かっているか。 |
数字に基づく経営 | 法人の永続性は担保されているか、客観的な経営判断は? |
人を活かす経営 | 人材を育成し、組織を活性化しているか。 |
法制度に基づく経営 | 報酬体系や関連制度を熟知し、活用・遵守しているか。 |
経営者や管理者の仕事の中心は「判断業務」です。日々の何気ない判断が、実は短期的にも長期的にも財務数値に影響を与えています。業績は収益や費用といった数字で示されますが、その内訳は「単価」と「数量」という要素に分けて考えることができます。経営者や管理者の判断は、この単価や数量に影響を及ぼし、結果として業績に直結していくのです。
だからこそ、数字に対する理解を深めて、現場で起きていることと財務数値のつながりを自分の言葉で説明できる力、すなわち「財務経営力」を高めていくことが大切になります。
項目 |
内容 |
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収益 |
単価 |
要介護度、加算・減算、居住費、食費など |
数量 |
定員、利用者数、稼働率、待機者数など |
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人件費 |
単価 |
基本給・手当・賞与・一時金・時間給 |
数量 |
採用・離職、配置数、能力・資質、パート、正職員、派遣 |
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残業時間、業務効率 |
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仕入支出 |
単価 |
食品単価、薬品単価 |
数量 |
食数、使用量、棚卸など |
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消費支出 |
単価 |
光熱費単価、消耗品単価など |
数量 |
使用量、消費量など |
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設備投資支出 |
単価 |
固定資産、整備費単価 |
数量 |
導入数、実施数など |
財務経営力を強化する上で、管理会計の導入が鍵となります。
区分 | 内容 |
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財務会計 | 外部の利害関係者(行政、金融機関等)への報告を目的とする会計。法令遵守が求められています。 |
管理会計 | 内部の経営者や管理者が経営判断に活用するための会計で、業績向上や経営参画意識の醸成を目的としています。 |
管理会計とは、月次決算や各種月次データをもとに、業績を振り返ったり経営分析を行ったりしながら、次の目標を定めていく仕組みです。こうしたサイクルを繰り返すことで、経営幹部だけでなく一般職員も含めて、法人の理念や目標を共有でき、組織全体が一体となって中長期的な経営の安定を目指すことができるようになります。
黒字体質か赤字体質かは、現場を率いるリーダーの姿勢によって大きく左右されると言われています。財務経営力を高めるためには、経営者・管理者自身が「数字に基づいた経営」を実践するだけでなく、組織全体の意識や文化を前向きに変えていくことが欠かせません。
黒字体質を築くために、経営者・管理者にはリーダーシップが求められます。なぜなら、財務の体質は、職場のリーダーが日々つくり出す組織文化に強く影響されるからです。実際に「黒字体質」の組織には、前向きで協力的な風土が根づいており、そのことが高い生産性にもつながっています。
赤字体質 (避けるべき体質) |
黒字体質 (目指すべき体質) |
不平不満・不信感 |
感謝・信頼・敬意 |
ネガティブ・否定的 |
ポジティブ・建設的 |
孤立・非協力的 |
協力・連携・チームワーク |
指示待ち |
主体性・自発的 |
生産性低い・非効率 |
生産性高い・効率的 |
査定重視型 |
対話重視型 |
利己的 |
利他的 |
低賃金・低待遇 |
高賃金・高待遇 |
社会福祉法人を取り巻く経営環境は、度重なる報酬改定、深刻化する人材不足、そして止まらない物価高騰・賃金上昇など、かつてないほど複雑性を増し、将来の予測が困難な時代に突入しています。この変化の中、場当たり的な対応を続けていては、法人経営の停滞が危ぶまれます。今こそ、確固たる羅針盤となる「中期経営戦略」を手にし、未来への経営ビジョンを自らの手で創り上げるべき時です。
法人の皆様が現在直面している主要な外部環境の変化は、大きく以下の2つに分類できます。
これらの変化に対応するためには、法人としての明確な羅針盤、すなわち「ビジョン」と「経営戦略」が不可欠です。では、その羅針盤となる「ビジョン」と「経営戦略」は、いかにして描けばよいのでしょうか。その問いにお答えするのが、私たちのコンサルティングプロセスです。
経営理念やビジョン、そして戦略は、決して額縁に飾るためだけの言葉ではありません。これらは、組織がどの山に挑むのか、その登山の目的地を明確に示し、悪天候や困難に直面しても進むべき方向を見失わないための地図であり、全職員の力を結集させるための拠り所となるものです。
経営の原理原則は、「登山」に例えることで最も明確に理解できます。
法人の存在意義、すなわち「なぜ私たちはこの山に登るのか」(何のために、誰のために事業を行うのか)を定義するものです。
5年後、10年後に到達したい「頂上の景色」(ありたい姿、目指すべき姿)を具体的に描き出すものです。
その頂上へたどり着くための「登山計画」(ビジョンを実現するための大きな方針・中期的な目標)を指します。
明確なビジョンと戦略を法人全体で共有することで、職員一人ひとりが「自分たちはどの山を、どのルートで登っているのか」を理解し、日々の業務に意味と誇りを見出すことができます。これにより、組織全体のベクトルが一つに揃い、個々の主体的な行動が大きな推進力へと変わるのです。
登山において頂上の目標も登山計画も持たずに進むことが遭難につながるように、戦略なき経営は緩やかな衰退を意味します。次のセクションでは、そのギャップを埋め、確実に頂上へと近づくための具体的なロードマップを策定していきましょう。
当社のコンサルティングは、単に美しい計画書を作成することが目的ではありません。法人の皆様の現状を多角的な視点から客観的に分析し、そこで働く職員の皆様が「自分たちの物語」として共感できる、実現可能な戦略へと落とし込む体系的なプロセスを重視しています。
全ての戦略は、客観的な現状把握から始まります。自法人が置かれている状況を正確に理解することで初めて、進むべき道筋と打つべき施策が明確になります。私たちは、以下の2つの視点から分析を行います。
区分 | 主な分析項目(例) |
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外部環境分析 (機会と脅威) | ・法制度、報酬改定の動向・地域の介護・障害事業計画・人口動態と地域特性・顧客ニーズや満足度の変化・競合他社の動向 |
内部環境分析 (強みと弱み) | ・サービスの質と競争優位性・人材の充足状況と専門性・組織風土とリーダーシップ・販売・広報活動と地域連携・施設の状況と財務の健全性 |
現状分析の結果を踏まえ、法人ならではの強みを活かし、未来の可能性を最大限に引き出す「ありたい姿」を描きます。それは、職員一人ひとりがワクワクするような、魅力的で具体的なビジョンです。
ビジョン(例):「地域福祉の拠点として、利用者から職員からも選ばれる事業所を目指す!!」
このビジョンを実現するために、私たちは「ビジョン達成5つの視点」を用いて、抽象的な目標を具体的な戦略へと落とし込みます。この5つの視点は、単なるチェックリストではありません。組織成長の因果関係を捉えた戦略マップです。
全ての基盤となるのが「学習と成長の視点」です。職員が成長し、働きがいのある組織風土が醸成されて初めて、「業務プロセスの視点」におけるサービスの品質向上や生産性向上が実現します。質の高いサービスは、「顧客の視点」における利用者満足度の向上や新規利用者の増加に直結し、それが「財務の視点」での収益増加や経営の安定化をもたらします。そして、盤石な経営基盤があってこそ、法人本来の目的である「地域貢献の視点」への取り組みを力強く推進できるのです。
この因果関係に基づき、体系的な戦略目標を構築していきます。
5つの視点 | 内容 |
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地域貢献の視点 | 公益的取り組み、地域との連携、社会福祉の充実・社会還元 |
財務の視点 | 収益・利益の増加、コストの減少、加算取得、報酬改定対策 |
顧客の視点 | 新規利用者の増加、既存利用者の満足度向上 |
業務プロセスの視点 | サービス品質の向上、生産性の向上 |
学習と成長の視点 | 人材確保、人材育成、人事制度、良い組織風土 |
戦略を実現するためには、具体的な行動が伴わなければなりません。何を重点的に取り組むべきかを明確にし、実現に向けた具体的実行計画を策定します。
戦略達成のための短期的行動計画として、具体的なアクションプラン(戦術)を明確にします。以下の5つの項目を数値化・明確化します。
項目 | 内容 |
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①重点取組課題(何を) | 重点的に取り組むべき課題を明確にする |
②目標値(どのくらい) | 極力数値化し、後から検証できるようにする |
③手段・方法(どのように) | 目標値まで改善するための具体的な手段・方法 |
④役割分担(誰が) | 責任をもって実施する部門や担当者を明確化 |
⑤スケジュール(いつまで) | 実施時期や期限を明確化 |
どれほど優れた戦略も、実行されなければ「絵に描いた餅」で終わってしまいます。私たちは、戦略を組織に浸透を図るための、「経営管理のPDCAサイクル」の構築を支援します。
これは、計画(Plan)で設定した目標に対し、実行(Do)した結果を検証(Check)し、計画と実績のギャップを埋めるための対策(Action)を講じるサイクルを回し続ける仕組みです。このサイクルが組織に根付くことで、戦略は机上の空論ではなく、全職員が主体的に関わるダイナミックな成長エンジンへと進化します。
これらの体系的なプロセスを通じて、私たちは法人の皆様と共に未来を切り拓く具体的な戦略を創り上げてまいります。
本コンサルティングが目指す最終ゴールは、変化の激しい時代においても揺らぐことのない、利用者からも、そしてそこで働く職員からも選ばれ続ける、持続可能な組織を構築することです。中期経営戦略の策定と実行を通じて、以下の具体的な成果が期待できます。
もちろん、これらの成果は一朝一夕に得られるものではありません。経営層から現場の職員まで、全員が参加する継続的な取り組みが不可欠です。私たちは、その挑戦の道のりにおいて、皆様のパートナーとして伴走し、ビジョンの実現を全力でサポートいたします。
昨今、社会福祉法人を取り巻く経営環境は、少子高齢化の進行、生産年齢人口の減少、そして働き手の価値観の多様化など、かつてないほどの変化に直面しています。このような厳しい環境下で、法人が理念を追求し、質の高いサービスを提供し続けるためには、組織の根幹を支える「人」の活力を最大限に引き出すことが不可欠です。
職業安定業務統計のデータは、人材獲得の困難さを明確に示しています。「介護関係職種」の有効求人倍率は、全職業に比べて、3倍~4倍と著しく高い水準にあります。これは、極めて厳しい「売り手市場」であり、人材獲得競争が熾烈を極めていることを意味します。
人件費のベースラインを押し上げる要因として、最低賃金の急激な上昇も挙げられます。兵庫県の最低賃金は、平成30年の871円から令和7年には1,116円へと、令和になってから30%近くも上昇しました。この傾向は今後も続くと予想され、人件費への圧力が経営を圧迫し続けます。
社会全体の賃金も、高水準で上昇しています。春闘賃上げ率は、令和6年、令和7年で5%を超える水準に達しており、他産業との賃金格差が拡大しています。この状況は、現行の処遇体系のままでは、人材が他産業へ流出するリスクを高める大きな要因です。
「令和6年度介護労働実態調査」における満足度D.I.(満足ー不満足)の結果は、職員が抱える本音を示唆しています。特に「賃金水準」に対する満足度D.I.は(△14.3)、「人事評価のあり方」は(△2.3)とマイナスになっており、これらの点に強い不満を抱いている職員が少なくないことがわかります。給与や評価の納得感が、職員のエンゲージメントを大きく左右しています。
外部環境の変化は、特に職員一人ひとりのモチベーションや定着率に直接的な影響を及ぼします。職員が安心して働き、やりがいを感じられる環境がなければ、どんなに素晴らしい理念を掲げても、組織としての力は発揮されません。
心理学者ハーズバーグの「二要因理論」によれば、仕事における満足と不満足は、それぞれ異なる要因によって引き起こされるとされています。
「衛生要因」とは、給与、労働条件、職場の人間関係など、整備されていて当たり前とされる要素です。今起きている外部の賃金上昇圧力や採用競争の激化は、職員が自社の給与や労働条件といった衛生要因に一層敏感になることを意味します。これらが満たされないと、職員は強い不満を感じ、この不満が解消されない場合、職員はより良い条件を求めて組織を去る決断を下しやすくなります。
一方で、「動機付け要因」とは、仕事そのものから得られる達成感、他者からの承認、責任ある仕事、自己成長の機会などを指します。これらは、職員の「もっと頑張ろう」という前向きな意欲を引き出すための要素です。もし人事制度が、職員の頑張りを適切に評価しなかったり、将来のキャリアパスが不明確で成長の見通しが立てられなかったりする場合、職員は「この法人で働き続けても成長できない」「頑張っても報われない」と感じてしまいます。結果として、職員のやる気を引き出すことができず、組織全体の活力が低下し、サービスの質の停滞にも繋がりかねません。
人事制度改革は、単に目の前の課題を解決するためだけのものではありません。それは、法人の理念やビジョンを実現し、将来にわたって選ばれ続ける組織となるための、極めて重要な経営戦略です。本コンサルティングは、法人が目指すべき姿を職員一人ひとりと共有し、その実現に向けて組織全体が一体となって進むための仕組みを構築することを目指します。
人事制度改革の究極的な目的は、「法人のミッション・ビジョンの達成」にあります。そのために、「こういう人材に育ってほしい」「こういう組織でありたい」という具体的な目標を設定し、それを実現するための手段として、等級・評価・給与・育成といった各制度を設計します。
経営理念や中期ビジョンといった法人の大きな方針から、各事業所の事業計画、部門の実行計画、そして職員個人の目標までが、一本の線で繋がる仕組みを構築します。この目標連鎖により、職員は自らの日々の業務が法人の理念実現にどう貢献しているのかを実感でき、目的意識を持って仕事に取り組むことができます。
これは、「等級制度」「評価制度」「育成制度」「給与制度」が一体となった仕組みです。職員が新人からキャリアをスタートし、専門性を高め、リーダー、管理職へとステップアップしていく道筋(キャリアパス)を明確に示します。この4つの制度は独立して機能するのではなく、等級が「キャリアの地図」を示し、評価が「現在地と進むべき方向」を教え、育成が「前進するための燃料」を供給し、給与が「達成した道のりへの報酬」となる、一つの統合されたシステムとして機能します。
この制度は、職員の成長を支援する「職員成長マネジメント」と、組織全体の目標達成を管理する「組織目標の達成マネジメント」を両立させる、いわば組織のエンジンとなるものです。
この理想的な制度を具現化するためには、貴法人の実情に合わせた具体的な制度設計が不可欠です。
本コンサルティングでは「キャリアパス等級制度」「評価制度」「給与制度」の3つの柱を一体的に改革することを提案します。
新制度の根幹をなすのが、キャリアパスの明確化です。「キャリアパスとは、法人にどのようなポスト・仕事があり、そのポスト・仕事に就くために、どのような能力・資格・経験等が必要なのかを定めた職務経歴の道筋のこと」です。職員が自身の将来像を描けるようにすることは、成長意欲を高め、組織への定着率を改善する上で極めて重要な戦略です。
検討項目 | 内容 |
---|---|
組織図の見直し | 現在の組織体制を再確認し、各部署・各役職の役割と責任を明確化します。 |
等級フレームの設計 | 新人から経営職に至るまで、成長段階に応じた職層(例:初級、中級、上級、監督職、管理職、経営職)を設定し、キャリアの全体像を可視化します。 |
等級定義の明確化 | 各等級に求められる能力(知識・技術)や役割(仕事の範囲・責任)を具体的に言語化し、「何をどのレベルまでできれば次の等級に進めるのか」を全職員が共有できるようにします。 |
昇格任用基準の設定 | 次の等級へステップアップするための具体的な要件(例:実務経験年数、保有資格、人事考課の結果など)を明示し、キャリアプランニングを支援します。 |
等級制度(例)
等級 |
職層 |
等級定義 |
対応役職 |
6 |
経営職 |
外部環境や他施設の動向について情報収集し、方針・戦略を立案し、担当責任者を動かし事業運営全般のリーダーシップを発揮できる。 |
施設長 |
5 |
管理職 |
施設の業務全般について精通しており、部門計画・目標を設定し、部下を統括して組織の力を結集させることができる。 |
課長 |
4 |
監督職 |
部署内の業務全般については熟知し、仕事の改善策の提案や、部下の指導・育成ができる。 |
主任 |
3 |
上級 |
担当業務については熟知し、業務推進においてチームを取りまとめ、リーダーシップを発揮し、後輩の指導・助言ができる。 |
リーダー |
2 |
中級 |
何年かの実務経験を要する複雑な定型業務を、マニュアルや一般的な指示により自己の判断により遂行できる。 |
一般 |
1 |
初級 |
日常反復的・定型的な業務が処理できる程度の基本知識・技術を有し、指示された通りの業務が遂行できる。 |
新人 |
このフレームは、職員一人ひとりに対し、「今、自分に何が期待されているのか」そして「次に進むためには何をすべきか」という問いに明確に答える、透明性の高いロードマップを提供するものです。
さらに、「昇格任用基準」として、各等級へ上がるための経験年数の目安や必要な資格、そして何よりも公正な人事考課の結果といった基準が設けられます。これにより、昇格プロセスの透明性と公平性が担保され、誰もが納得感を持ってキャリアアップを目指せる環境が整います。
給与制度は、職員の生活を支える基盤であると同時に、法人のメッセージを伝える最も強力なツールです。新しく構築する等級制度や評価制度と連動させ、職員の貢献や成長が「見える形」で報われる、透明性の高い給与制度を設計します。
新しい給与制度は、キャリアパス等級制度と完全に連動します。その目的は、職員一人ひとりの「仕事や能力、資格及び経験等に見合う」公正な処遇を実現し、頑張りが報われる仕組みを構築することです。
①給与体系の見直し
新制度では、諸手当の役割を整理し、基本給・月給のウェイトを高めることで、より安定的で分かりやすい給与体系を目指します。この基本給・月給ウェイトの引き上げは、採用競争の激化や最低賃金の上昇といった外部環境の変化に対応するための戦略的な判断であり、競争力のある給与を構築する上で不可欠です。
②等級ごとの賃金レンジ設定
新しい給与制度では、新しい等級フレームと連動した基本給テーブルを設計します。等級ごとに賃金の上限と下限からなる賃金幅(レンジ)が設定されます。これにより、2つの成長が処遇に反映されるようになります。この仕組みにより、職員は日々の成長と、長期的なキャリアアップの両方を実感しながら働くことができます。
③キャリアに応じた賃金水準の設定
「モデル賃金」や「キャリアアップ別賃金推移」を明示します。これにより、職員は年齢や等級に応じて、将来どの程度の収入が得られるのかを具体的にイメージでき、安心して長期的なキャリアプランを描くことが可能になります。
評価制度の目的は、職員の優劣をつける「査定」だけではなく、一人ひとりの成長を支援する「育成」にあるべきです。従来の「査定型評価」から、職員の成長を主眼に置いた「育成型評価」への転換を目指します。
①「育成型評価」の特徴
検討項目 | 内容 |
---|---|
絶対考課 | 他の職員と比較するのではなく、定められた基準に対して本人がどうであったかを評価します。 |
基準の明確化 | 何をすれば評価されるのか、具体的な人事評価基準等を明確に設定し、公開します。 |
フィードバック | 評価結果を一方的に伝えるのではなく、面談を通じて本人に丁寧にフィードバックし、強みや今後の課題を共有します。 |
訓練徹底 | 評価者が主観や偏見で評価しないよう、適切な評価者研修を徹底し、公正な評価を目指します。 |
対話重視 | 評価者の部下との関りは、評価時期のみではなく、日頃の対話を重視して行われるべきです。 |
②人事評価シートの設計
評価の客観性を担保するため、評価基準は以下のステップで作成します。
③公平な評価ルールの策定:
評価の客観性と公平性を担保するため、「人事評価のルール」を規定します。例えば、「事実に基づいて評価する」「評価期間内の職務上の行動だけに限る」といった明確なルールを定めることで、評価者の主観や印象による評価を防ぎ、職員の納得感を高めます。そして、人事考課実施要綱として明示していきます。
人事制度改革は、一方的に新しい制度を導入するのではなく、法人の理念や文化、そして現場の職員の皆様の声を丁寧に反映させながら進めることが成功の鍵です。本プロジェクトの成功には、現場の知見を持つ貴法人職員の皆様との緊密な連携が不可欠です。つきましては、各部門から代表者を選出したプロジェクトチームを組成いただき、弊社が進行や議論を導きながら、法人の実情に即した制度を共に創り上げていく協働体制を想定しております。
プロジェクトは、大きく以下の4つのフェーズに分けて、着実に実行してまいります。
フェーズ |
協議事項 |
内容 |
【フェーズ1】 現状分析および改定方針 |
①現行賃金分析 |
職員の年齢や役職と給与水準の関係を可視化し、給与規程の分析など現状の課題を客観的に把握します。 |
②人事評価制度分析 |
現行の評価制度(人事考課表・規程など)の運用状況や課題点を分析します。 |
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③職員アンケート分析 |
職員アンケート調査を、必要に応じて実施し、職員の皆様が給与・評価・組織に対して感じている本音を収集します。 |
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④制度改定の基本方針 |
分析結果を基に、今後の改革の方向性や優先順位について、プロジェクトチームで合意形成を図ります。 |
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【フェーズ2】 等級制度の設計協議 |
①人事管理フレームの設計 |
改革の骨格となる組織図やキャリアパスの等級フレームを設計します。 |
②昇格任用基準の設計 |
次の等級へステップアップするための具体的な要件(経験年数、保有資格、人事考課の結果など)を設計します。 |
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【フェーズ3】 給与制度の設計協議 |
①給与制度の設計 |
新しい給与体系、諸手当の基準、俸給表、賞与の支給基準、処遇改善加算の支給基準、非常勤給与制度などを具体的に設計します。 |
②新給与移行シミュレーションの実施 |
新制度へ移行した場合の職員一人ひとりの給与変動をシミュレーションし、不利益の状況、人件費総額は適正かなどを詳細に検証します。 |
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③給与規程の改正 |
新制度の内容を反映した給与規程の改正作業をサポートします。 |
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④新給与制度導入説明会: |
職員を対象に、新しい人事制度の目的、仕組み、自分たちにどう関係するのかを説明し、理解と納得を促します。 |
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【フェーズ4】 評価制度の設計協議 |
①評価シートの設計 |
人材像の洗い出し、新しい評価シートの具体的な設計をします。 |
②人事評価実施要綱の設計 |
評価の進め方、評価のルール、評価と処遇の連動、評価心得・面接心得等をまとめた、実施要綱を設計します。 |
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③評価者研修 |
管理職・監督職を対象に、新しい評価基準の理解、適切な評価方法、部下の成長を促す面談の進め方などについて、実践的な研修を行います。 |
福祉・介護業界全体が人材不足に直面する中、職員一人ひとりの定着と成長をいかに支援するかは、法人の持続的な発展を左右する最重要課題です。特に、現場をまとめ、スタッフを導く中間指導職の役割は、組織の安定性とサービス品質の根幹をなすものです。本プログラムは、この中間指導職の育成を通じて、貴法人が直面する課題を根本から解決することを目指すものです。
現状、多くの福祉・介護現場では、以下のような課題が顕在化しています。
人材不足が叫ばれる近年、離職者を減らすことは経営上の最優先事項です。その大きな要因の一つが、現場の中間指導職とスタッフ間のコミュニケーション不全にあります。信頼関係の欠如は、スタッフの孤立感や不満を増大させ、最終的に貴重な人材の流出へとつながってしまいます。
スタッフを指導・育成するコミュニケーション能力は、「持って生まれた天性の能力ではなくて、現場実践を通して培われていくもの」です。しかし、その育成が個々の指導職の資質や経験に依存してしまい、組織として体系的な育成アプローチが確立されていないケースが散見されます。これにより、指導の質にばらつきが生じ、次世代を担うリーダーが育ちにくい環境が生まれています。
これらの課題を放置することは、サービス品質の低下、採用・再教育コストの増大、そして組織全体の活力低下といった深刻なリスクを招きかねません。これらの課題を解決するための具体的かつ効果的なアプローチとして「コーチング」をご提案します。
これまでの「人材定着」と「リーダー育成」という複雑な課題に対し、本プログラムは「コーチング」というアプローチを提案します。コーチングは単なるコミュニケーション技法ではありません。それは、スタッフの主体性を引き出し、信頼関係を基盤とした強固な組織文化を育むための戦略的な手法です。
コーチングとは「信頼と対話によって、相手の可能性を引き出し、自律的(自立的)な成長と成果を継続的に支援するコミュニケーションスキルです」。このスキルを中間指導職が習得することは、貴法人にとって不可欠な投資となります。その理由は以下の通りです。
従来の部下指導は、しばしば指導者個人の「勘」や経験則といった抽象的なものに頼りがちでした。コーチングは、「科学的」「具体的」「実践的」なアプローチに基づいた指導スキルです。これにより、指導の属人化を防ぎ、組織全体で標準化された質の高い人材育成が可能となります。これにより、指導者の異動や退職に左右されない、持続可能で安定した人材育成基盤を組織内に構築できます。
一方的に知識や技術を「教える」ティーチングとは異なり、コーチングは対話を通じて相手の内にある答えや可能性を「引き出す」ことを重視します。このスキルを身につけることで、指導職はスタッフが「自ら考え、気づき、行動を起こす」プロセスを支援できるようになります。これは、指示待ちではない、主体的な人材の育成に直結します。
「信頼関係」という目に見えない資産を、具体的な行動を通じて意図的に構築できるのがコーチングの強みです。本プログラムでは、「信頼関係構築のステップ」「話しを聴く」「受け入れる」「承認行動」「メッセージを送る」といった体系的な方法論を学びます。これにより、感覚的ではなく、論理的かつ着実にスタッフとの信頼を深めることが可能になります。
本プログラムが目指すのは、単にコーチングという知識を知っている状態ではありません。日々の現場で着実に実践し、成果を出せる「出来る」状態へと導くことをサポートいたします。
本研修プログラムは、貴法人の未来を支える人材と組織文化への戦略的な取り組みです。プログラムを通じて、中間指導職の能力を最大限に引き出し、それが組織全体へと波及する好循環を生み出すことを目的としています。
本研修プログラムを通じて達成を目指す3つの主要な目標と、それによって期待される組織への効果は以下の通りです。
<期待される効果>
スタッフとの信頼関係が深化し、日々の業務連携が円滑になります。これにより、意見を言いやすく、安心して働ける心理的安全性が確保され、チーム全体のパフォーマンスが向上します。
<期待される効果>
指導職がコーチングスキルを実践することで、スタッフ一人ひとりの主体性と問題解決能力が引き出されます。結果として、指示待ちではない、自律的に考え、能動的に業務に取り組む人材が育ちます。
<期待される効果>
良好な人間関係と、自身の成長を実感できる職場環境は、職員の仕事に対する満足度とエンゲージメントを飛躍的に高め、離職率の低下に直結します。これは、長期的に見て採用および再教育にかかるコストの低減に貢献します。
これらの目標を達成することは、貴法人のサービス品質の向上はもちろん、働くすべての人にとって魅力的な職場環境を創出し、持続的な成長基盤を強化することにつながります。
本プログラムは、理論を学ぶだけの座学研修とは一線を画します。私たちは「研修会の場を通じて、自分で経験して、現場で実践して、感じて、気づいて、『知っている』から『出来る』へ」というコンセプトを最も重視しています。知識のインプットに留まらず、現場で即活用できる実践力を徹底的に鍛える「体験型学習」をカリキュラムの核としています。
6つのステップで構成される研修課程を企画します。
貴法人の具体的な課題やご要望に合わせて、プログラム内容のカスタマイズし、企画・提案をさせて頂いておりますので、詳細についてはお問合せを下さい。