レポート:74号『来たるべき2025年に向けて』

 春光うららかな季節を迎え、みなさまの法人でもフレッシュな新卒新入職員をお迎えのこととお慶び申し上げます。彼らこそ日本の超高齢社会問題を支えていただく貴重な存在と考えます。厚生労働省がターゲットとする2025年には、彼らは10年目を迎え中堅職員として介護現場で活躍しているからです。

 しかし、そんな夢と希望を抱いて縁あって入職した彼らのうち、3年も経過すると半減してしまうのが介護現場の現状と報道されています。今後迎える超高齢社会を支えるためには2025年には240万人の介護職員が必要と試算されています。これには現在よりも100万人の増加が必要となります。一方、2025年には労働人口(15歳~64歳)が100万人減少するのも既定の事実です。このような情勢のなか、介護職員不足は国家的な最重要課題となるのは必至です。

 いままでは離職者の補充は何とか無理をして補充をされてきた法人さまも多いと思いますが、これからは介護職員の新規採用は至難の業となってきます。今年1月に日経新聞に掲載された記事によりますと、首都圏では介護職員の退職に歯止めがきかず、やむなく特養の部分開業・ショートステイの休止・デイサービスの廃業が現実化し、このままでは将来的には介護難民が出現するとも報道されています。下表は昨年10月現在の有効求人倍率表です。東京都は4.34倍で介護職員の熾烈な争奪戦の様相です。兵庫県でも都市圏では近い将来東京都と同様の状況になると推測されます。

 

 

 

産業別

介護職

全産業        全国平均

都道府県

兵庫県

大阪府

岡山県

東京都

愛知県

全国平均

有効求人倍率

2.53

2.77

2.39

4.34

3.96

2.42

1.02

 

 

 

 このような情勢下、新規採用に躍起になるよりも、むしろ既存職員の離職率をゼロにする対策のほうが有効であり現実的かつ喫緊の課題と考えます。

 介護労働安定センターの平成25年度の意識調査によりますと、介護職員が現在の職場を選んだ理由は、「①働きがいのある仕事だから」・「②資格・技能が活かせるから」が多数を占め、逆に、直前の介護の職場をやめた理由としては、「①職場の人間関係に問題があったため」・「②法人や施設の理念や運営のあり方に不満があったため」と回答しており、「給料が安かったから」は第4位です。給料が安いから定着しにくいというのは経営陣の言い訳的論理であり、介護職員側としては、職場の人間関係や法人の基本理念が重要と考えている様です。ここに労使の感覚のギャップがあるように思います。

 そこで、一番目の「職場の人間関係の浄化」は、中間管理職のリーダーシップにかかっています。そのためには中間管理職の部下育成スキル向上は不可欠な要因です。それは、彼らに部下育成能力がないのではなくて、部下育成の考え方や技術に関する研修を受けていないだけと思います。上司として部下の存在を認め、自主性を育て、生きがい・やり甲斐につなげていく「コーチングスキルアップ」の研修がカギを握っていると考えています。特に今の若いスタッフには、もはや「ティーチング技法」は通用しなくなっています。中間管理職が「コーチング技法」の考え方や技術をしっかりとマスターし、現場実践していけば随分と職場の風土や人間関係が好転していくと確信します。

 また、二番目の「法人や施設の理念や運営の仕方」については、社会福祉法人は非営利法人として、福祉制度や市場原理では満たされないニーズに応えることが期待されているという原点に立ち返り、様々な社会生活上の困難を抱える者に対して日常生活の支援を含むトータルなサービスを提供するなど、いわゆる社会福祉制度のセーフティーネットとしての役割を果たしていくために、地域における自法人の存在意義や事業展開について、今一度、真剣に議論を重ね自法人の中長期的なビジョンや経営理念を明確にし、それを介護職員にしっかりと示し、彼らの生きがい・やり甲斐につなげていく努力が必要ではないでしょうか。

 以上、まことに不遜な提言かと存じますが、長年、社会福祉法人さまとお付き合いをさせていただいている外部関係者として切望することを申し上げましたことお許しくださいませ。

 ひとつの大きな節目である2025年に向けて、ご利用者や職員から愛される夢と希望にあふれる法人経営を心よりご祈念申し上げます。

(株)経営開発センター  文責:阿野英文 拝

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