レポート:84号『求人超氷河期に備えて いまできることは?』

 新しい年が明けてまたたく間に一か月が過ぎ去り、年中で一番寒さ厳しい時節を迎えていますが、読者のみなさまにはご健勝のこととお慶び申し上げます。また、年度末を真近に控えて何かと多忙な日々をお過ごしのことと存じますが、御身ご自愛いただきますように願っております。

 さて、昨年4月のレポート74号でも取り上げさせていただきました「2025年問題」に対して今できる事を考えていきたいと思います。同年には団塊の世代が全員後期高齢者(75歳以上)に入り介護を必要とする人口がピークを迎え、介護サービスを提供する介護スタッフ数を現在よりも90万人増やす必要が見込まれています。しかし、同時に同年には介護サービスを提供する現役世代(15歳~64歳)の人口が100万人減少することが確実視されています。この人口趨勢を冷静に捉えると、数年以内に介護スタッフの新規採用は全く不可能な時代に突入することを意味します。神戸市介護サービス協会が最近実施した介護人材・定着に関するアンケート調査によると神戸市内の高齢者施設140施設における平成26年度に離職した介護スタッフが932名で、同期に新規採用した人数は1,094名となっています。この1,094名の新規採用を実現するための施設側の心労と労力とコストは半端ないと思いますが、一方で932名の離職者があり実質162名しか増えていないことになります。今後を考えると新規採用人数1,094名がゼロになると覚悟すべきです。であるならば、当然の理屈として離職者人数をゼロに近づけるために施設としての渾身の経営努力が必要となることを再認識すべきであると考えています。同調査によりますと介護スタッフの退職理由の上位は、①仕事内容が身体的にきつい、②職場の人間関係の悪化、③賃金が低いの順になっています。賃金が低いということも大きな要因かと思いますが第3位です。さらにそれらの退職者の大半が介護職として再就職しています。これらの事実に基づき、離職者をゼロにするために具体的に今できることは職場の人間関係の再構築(信頼関係の醸成)が最も大切になると考えます。

 特に、現場の中間指導職と介護スタッフの人間関係(信頼関係)は最重要課題です。介護スタッフにその努力を求めるのは筋違いで、まさに中間指導職のコミュニケーション能力や技術の育成が重要となります。コミュニケーション能力は持って生まれた天性の能力ではなくて、現場実践を通して培われていくものと言われています。スタッフとのコミュニケーションの正しい理解と実践が必要となります。まさにそれが「コーチング技術」といっても過言ではありません。

 コーチング技術の一つに「承認行動」というのがあります。人は誰でも「認められたい」という想いを持っています。「認められる」ことがどんなに嬉しいか、「認められないこと」がどんなに寂しいことなのかを知っています。このことは自分たちの仕事上の喜びにダイレクトに関わっており、日々の行動を進化継続させるパワー(力の源)になっています。このことを中間指導職はしっかりと理解し、日常業務の中でスタッフに対する「承認行動」を意識化し発信していくことが重要です。具体的には以下の4つの「承認行動」があります。

(1)  「存在承認」:スタッフの存在そのものを認める

例:名前を呼ぶ「○○さん、おはよう」「昨日、散髪に行ったの、若々しくなりましたね」等

(2)  「行動承認」:スタッフがとった行動を事実そのままに認める

例:「ここにマーカーを入れて強調してくれたのですね」「これはあなたがしてくれたのですね」等

(3)  「成長承認」:スタッフの成長を認める(大小を問わず、むしろ小の積み重ねが大切)

例:「○○が出来る様になりましたね」「半年前に比べて成長しましたね、努力されたんですね」等

(4)  「結果承認」:結果について認める

例:「やりましたね、すごい成果ですね」「よく頑張ったと思います」等

これらの「承認行動」がスタッフの喜びや力の源に直結することを実感し多用することが求められます。

 そのほかコーチング技術には、「価値観の棚卸」・「聴く力」・「Iメッセージ、Youメッセージ、Weメッセージ」・「見られているの意識化」・「コーチングでの約束事」・「アイスブレーク・セッティング・コーチング」・「質問を具体化する・質問を俯瞰する」・「マジック・クエスチョン」・「セルフトーク」・「フィードバック」などスタッフとの信頼関係の醸成には不可欠のコミュニケーション技術が満載です。

 信頼感は技術や知識ではなくて「心の有り様」だとおっしゃる方もお有りかと思いますが、「心の有り様」といった観念的・抽象的な概念では現場を預かっておられる中間指導職のみなさんには理解されませんし通じません。もっと科学的・心理学的・具体的・行動的な技術や知識を理解し、さらに現場の中で実践することから始める発想を持たれてはいかがでしょうか。弊社では、すでに数社の施設で「コーチング継続研修」を実践中で、その成果を楽しみにしています。

 とにかく、近い将来、到来必至の求人超超氷河期に備えて、離職者ゼロを目標に今できることを具体的に一歩踏み出すことが重要と考えますが、いかがでしょうか。

(株)経営開発センター  文責:阿野英文 拝

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