レポート:94号『いま、施設経営に必要な2つの考え方』

                                                                                  

 

平成28年も師走12月に入りました。本当に月日の流れを速く感じるこのごろです。

 みなさまには、社会福祉法人制度改革への対応や理事会対応など例年になくお忙しいことと拝察いたします。

 さて、今月のコラムは私が福祉経営のご支援をするなかで、違和感を感じることを2つご紹介いたします。

 一つは、先日ある施設で11月の理事会に向けて当初予算の補正を検討する会議に参加いたしました。さらには年度末に実績を勘案しながら最終の補正予算を編成されるのが通例になっています。要するに、予算を実績に近づける考え方です。本来の経営感覚である実績を予算に近づける考え方からは、すごく違和感を感じます。まず、当初予算編成の取り組み姿勢に、また補正をすれば良いという安易な姿勢は無いでしょうか。そもそも当初予算とは目指すべき年度利益計画であり、事業継続を担保する重要な羅針盤ですから、羅針盤が実績によってぶれると事業経営という大海を乗り切れません。介護報酬改定等により基本単価が引き下げられる情勢下では、利益が出るのを当たり前のように感じる経営感覚は神話の話しになりました。収入予算や人件費予算・経費予算について綿密な積算根拠に基づく当初予算編成は大変重要な経営行動と思います。ただ、社会福祉法人は常に行政監査の監視下にあり、やむを得ない事情もありますが、こうした当初予算編成への姿勢を切り替えなければ厳しい環境下に事業を永続させることは困難になる時代になっています。

 そのためには、当初予算を月別に編成し、毎月の月次決算により予算と実績の差異検討を通して、何としても当初予算の実現に向けて執念を燃やすべきではないでしょうか。現在の予算が実績にすり寄る手法では、上方修正の補正予算の場合は期末におけるスタッフの達成感も減少しますし、下方修正の補正予算の場合は期末の反省も希薄になってきます。まさに管理会計の視点の強化を痛感いたします。

 いま一つ感じます違和感は、どの法人さまも介護スタッフ不足で現場業務を回すことが精一杯で、職員教育研修等に割く時間的な余裕がないという悲鳴に似た声を聞くことが多い昨今です。人的な余裕ができれば職員教育に力を入れたいと言われますが、はたして、人的余裕ができるときがくるでしょうか。マクロ的な視点から観ると2025年まではそんな日は来ないと考えます。

 上図は、施設内の業務を緊急度と定型度により4つの領域に区分したものです。現在の状況はスタッフ不足により第1領域(日常定型業務)にマンパワーを集中させて、第2領域(マネジメント業務)まで手が回らない状況かと思います。しかし、第2領域の推進により第1領域が整備され標準化・効率化されることを考えると、第2領域を後回しにすることにより、ますます第1領域の業務が混乱し膨張していきます。したがってスタッフ不足である今日こそ、腹を据えて第2領域へ時間とエネルギーを投入すべきときではないでしょうか。現実論として、非常に難しいとは思いますが、現状のスタッフ不足への対策は、①既存スタッフの定着率を上げること、②既存スタッフ一人ひとりのパワーを上げること(教育研修等)に尽きると思います。     

 今まで以上に、①当初予算実現を目指す経営姿勢、②スタッフの教育研修重視に視点を置いた法人経営を推進されることを心より祈念いたしております。

文責 経営開発センター

参与 阿野英文 拝

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