レポート114:『真の経営力が試される時代』

 いま社会福祉法人を取り巻く外部環境は非常に厳しい氷河期と言えます。社会保障費(年金・医療・福祉)の急膨張による国家財政難に基づく基本報酬単価の逓減、また高齢者福祉業界にあっては市場拡大をねらって他業界からの市場参入による競争の激化、さらにスタッフの超不足状況(有効求人倍率→全産業1.36:介護分野3.02、H28年度)など、今まで経験したことがない厳しい環境となっています。従って今まで順調に利益が確保できてきた法人にあっても、これからは「真の経営力」がないと事業継続のために必要な適正な利益確保はますます難しくなってきます。

 そこで、今月は私が考える「真の経営力」について考察したいと思います。一般的に事業経営に必要な経営要件は、①目標、②業務システム、③スタッフの意識の3つと言われています。以下これらの3点について現状と課題を以下に紹介させていただきます。

【1】目標

 社会福祉法人の「目標」は具体的には①経営理念、②年度事業計画、③当初予算の3つです。

・経営理念が目標の中でも一番重要で、何のために事業を推進するのかといった法人の基盤です。現実は経営理念はあるが現場の中で生きていないのが現状のようです。いま一度、経営理念を現場の中に練り込む施策が求められます。

・年度事業計画については、抽象的・観念的・概括的なものが多く、もっと具体的に行動的に写真映像のように鮮明に策定しないと現場スタッフがそれに向かっていく意識がぼやけてしまいます。

・当初予算については、制度上必要とされるので一応は策定をしているといったレベルが多いようです。それが証拠に実績に合わせて当初予算が補正されているのが現状です。そもそも当初予算の策定目的は事業経営にどうしても必要な今期の利益目標ですから、実績を当初予算に近づけるという意識転換が求められます。

 「目標」を力強いものにするためには、経営理念教育・年度事業計画策定・当初予算編成に中間管理職を巻き込んで意識強化する必要があります。

【2】業務システム

 「業務システム」でいま求められているのは、①多部門経営に対応した組織再編成、②目標と実績の差異検討と対策(PDCA経営サイクルの実践)、③営業機能の強化の3つです。

・組織再編成については法人本部機能の強化(優秀な人材の確保・各施設のガバナンス担当など)と各部門責任者への適材適所な人材配置(部門責任者の交代により飛躍的に当該事業の業績が好転した事例を多く見受けます)

・目標と実績の差異検討については、月次実績検討会で月次決算による当初予算の進捗確認と年度事業計画の進捗管理を中間管理職以上で検討するのですが、必ず報告書といった文書で毎月進捗状況報告をさせる必要があります。口頭だけでは単月だけの空中戦となってしまいます。先月・当月・次月へと継続させ線で結ぶ必要があります。

・営業機能については、最近各社とも営業を開始されているようですが、現場業務の片手間で細々と継続されていることが多く、もっと本格的に計画的に継続的に実践する必要があります。営業専属のスタッフを張付ける余裕はないのが現状ですが、少なくとも圏域内の居宅介護支援事業所に毎月訪問するだけの営業時間を確保する必要があります。

 

そのためには、現場業務の見直しと権限や職務の委譲を真剣に進めることが課題です。また、外への営業だけでなく、内なる営業が要求されます。それは競争激化に打ち勝つだけの他社とのサービスの差質化です。利用者や家族から圧倒的な支持を受けるためのサービスの在り方を根本的にチェックする必要があります。これから10年の間に主要顧客層が団塊の世代に移行していき、求められるあるいは支持を受けるサービスの在り方が激変すると考えるからです。

【3】スタッフの意識

  「スタッフの意識」では、①スタッフの基本姿勢、②計数教育、③評価制度の3つです。

・スタッフの意識については、私が受けているイメージでは、指示待ち・他責・無関心・無欲の傾向を感じます。これらを自発的・自責・関心・夢追い人へ変えていく教育が必要です。特に中間管理職の意識の転換は大きな成果を産むと考えます。そのために経営理念を実現するためのスタッフの理想像つまり「スタッフの行動指針」を明確に打ち出し辛抱強く啓蒙する努力が求められます。

・計数教育については、「理念に基づく経営」・「数値に基づく経営」・「衆知を結集する経営」の内で「数値に基づく経営」を実践するためには各種数値の意味の理解と数値が叫んでいる現状把握の力を養う教育です。これは少なくとも中間管理職以上には必須です。まず財務数値の理解から始める必要があります。

・評価制度については、すでに多くの法人で実践されている状況ですが、本来の評価制度の目的は人材育成にありますので、評価結果のフィードバックに主眼を置いて見直しをする必要があります。そのためには「公正な評価の担保」と「中間管理職の人を育てる力の強化」(例えばコーチング技法など)を愚直に継続推進することが求めらます。

 以上、私が感じていることを勇気をもって独断と偏見で紹介をさせていただきました。すでに全て実践しておられる法人も多いと存じますが、なにかの参考にしていただければ幸いに存じます。

文責  (株)経営開発センター  参与 阿野 英文

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