レポート:79号『介護スタッフの専門職としての知識・技術研修事例』

 団塊の世代が全員後期高齢者に突入する2025年を10年後に控え、すでに首都圏では施設不足・介護スタッフ不足等により、介護パワーが不足し地方移住を訴えています。日本が抱える超高齢社会の未来像の前兆かなと考えます。また、今まで以上に社会の介護ニーズは急増し、介護専門職としての知識や技術への社会の要請はますます高まるのは必至です。そこで、今回は専門知識・技術研修事例として、私も事務局として講師としてお手伝いをさせていただいています神戸市の「神戸市高齢者認定制度」について現場報告をさせていただきます。

 同制度は、介護職員の意欲向上と社会的評価の向上、神戸市全体の介護サービスの質の向上及び介護人材の確保のためにできた神戸市独自の認定制度で今年度で5年目を迎えます。

 3年以上5年未満の間、継続して介護業務に従事している職員を対象として、4日間30時間程度の講習会を実施するとともに認定試験を行い、合格者を「3年で到達すべきレベル」に達すると認め、神戸市から市長名で認定証が授与されます。過去4年間で144名の認定者を輩出しています。

 これまでの受験者からは、「介護福祉士国家試験の受験に役立った」、「基本的なことを学び直す良い機会となった」、「新人の時の研修と違い、現場で働いた上での勉強会だったので、普段のケアと結び付けて学ぶことができて良かった」という声が上がっています。現場の管理者からも「今までの合格者は全員、翌年には介護福祉士に合格しており、意味のある研修である」との評価を得ています。

 講習会カリキュラム・認定試験科目としては、

①    「高齢者介護の理念と倫理」(尊厳の保持や自立支援という高齢者介護の基本理念を介護の歴史から理解すると共に実践の場で求められる職業倫理について学習する)

②    「老年期の心身の発達と健康」(老年期の心身機能の変化の特徴に関する医療面の基礎知識を習得する)

③    「安全と安心の確保のための介護技術」(自立支援の視点から介護技術の基礎知識を習得し、またケーススタディによる個別支援計画の立案ワーキング実施)

④    「介護保険制度と個人の権利を守る制度の概要」(介護実践に必要な視点から介護保険制度や人権擁護に関する制度施策の基礎的知識を習得する)

⑤    「高齢者施設・事業所の組織に関する基礎知識」(高齢者施設・事業所における組織の仕組みやルールの理解、社会人・組織人としての意識を身に付ける)

 以上の5教科となります。日を改めて認定試験があるためもあるかとは思いますが、各受講者とも真剣に長時間に渡り受講されている真摯な姿には頼もしさを感じます。また日頃何気なく実践してきた現場ケアについて、理論的・科学的根拠が解り、手段としてではなく目的から観た支援業務が実践できそうだとの受講者の声を聞きます。これは3年目を迎えた現場スタッフだからこその実感だと思いますし、この感覚が今現場で求められる介護観ではないだろうかと考えます。

 今後ますます社会から求められる介護専門職としての知識・技術レベルを担保するために、今こそ計画的・意図的・体系的な研修が急務であり、スタッフ不足からどうしても現場最優先になる現場事情を克服され、個々の介護スタッフの質を上げていくことが社会からの要請と考えられては如何でしょうか。

(株)経営開発センター  文責:阿野英文

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